ため池の畔で
作品概要
- 制作年
- 2021年
- 素材
- 絹布、染料、和紙、額縁
- サイズ
- 655mm(幅)×611mm(高さ)×20mm(奥行き)
- 特筆事項
- 素材の性質上、直射日光や高温多湿に弱い作品となっております。ご鑑賞・保管の際は、以上の条件を避けた場所をお勧めいたします。
これやんの作品コメント
STORY
倉本:現在の井上さんは染色の技術を用いたアート作品を制作していますが、まずは幼少期の頃のお話を伺えますか?
井上: 小さい頃は漫画絵などを描いていました。絵を描くのがすごく好きで、高校は“もっと絵が上手くなりたい”という理由で美術系の学校に進学しました。京都にある陶芸や漆など特殊な分野も扱っている公立の美術高校で、染物を始めたのはそこで習ったのがきっかけです。
倉本:染色に興味を持たれたきっかけは?
井上:高校と大学でいろんな手法を体験し、そのなかで一番難しいと思ったのが染色でした。だから、やり遂げてみたいという思いが強かったです。あとは絵の具とは違う、深みのある色やグラデーションも魅力でした。大学では染色の新しい表現を追求し、デカルコマニー(転写)を染色技法に応用することを試しながら、それに加えて描くことを結びつけるようになりました。染色でデカルコマニーと絵を組み合わせるというのは、私独自のやり方だと思っています。
倉本:染色というと着物で見られる、きれいな布のようなものを思い浮かべます。それを絵画的な方向でやるという発想はどこから生まれたのですか?
井上:やっぱり、絵を描くのが好きだったからです。もともと着物文化が発展したのも江戸時代に“布に絵を描けたらいいんじゃないか”という発想が生まれたことが大きくて、布と絵は歴史的に見ても、切っても切り離せない関係性があります。今や着物もあまり着られなくなってきていますが、私には染色の魅力を伝えていきたい思いがあります。なので、私にできることといったら、工芸の分野だけではなく、絵画の分野でも染色を見てもらい、多くの人に認めてもらうことじゃないかと思うんです。だからこのような作品を作っています。
倉本:モチーフにはどんなものを選んでいるのですか?
井上:例えば、ニョキニョキと生えてくる植物に生命の力強さを覚えるので、植物や雑草をモチーフにすることもあります。 擬人化のような感じでモチーフを選ぶことも多く、よく出てくる鳥には自分を投影しています。あと、金魚も好きですね。好きなものを合わせたり、自分を投影したり、いろいろと混ぜて描いています。
倉本:とても繊細な仕上がりですが、どのように制作していますか。
井上:最初は真っ白な布に、デカルコマニーになる部分に糊を塗っていきます。チョコペンのような先の細い道具で、絵の具ではなく糊で描いていきます。糊が載った部分は白く残るので、その模様を見て、想像を膨らませて描いていきます。防染技法という友禅染めの技法のひとつです。友禅にはいろんな技法があり、全盛期の頃はとても盛り上がっていたのですが、今では技法はもちろん染色を知る人すら少なくなってしまい、危機感を覚えています。日本が誇るべき文化がなくなってしまったらどうしよう、いかに蘇らせていったらいいだろうって……。
倉本:だから絵画の新しい画法として、蘇らせようというわけですね。とても特徴的な表現だと思います。
井上:この手法は仕上がるまで、どうなっているかわからないので、最後までドキドキしながら制作しています(笑)。それもあってうまく仕上がったときは、ほんとに嬉しいですね。