特集[ステンドグラス 八田大輔]〜アトリエ取材編〜
ウッド・ベースにスケート・ボード
趣味色が溢れた創作空間
ステンドガラス作品や絵画を制作するアーティスト、八田大輔先生のアトリエ(Atelier Roche)を訪問しました。都内唯一の路面電車、都電荒川線沿いの閑静な場所にあるAtelier Roche。スケートボードやステンドガラスが飾られたアトリエのエントランスは、アメリカ西海岸の古着屋やバイクショップのよう。その雰囲気のとおり八田先生はバイクや音楽が好きで、アトリエには自身で演奏するウッド・ベースも置かれています。アトリエにはいつも音楽が流れていて、取材で訪れた日は1990年代のロックが聴こえてきました。
アトリエ内には絵付けしたガラスを焼く電気窯やサンドブラスト用のコンプレッサー、角を削るルーターなど、ステンドグラス用の制作機器が並んでいます。壁にはモチーフになるイラストや作品が飾られていて、アメリカのトラディショナル・タトゥーなどの影響も感じられ、さまざまなテイストが八田先生のステンドガラス作品に落とし込まれていることが分かりました。
大胆さと繊細さが求められる
ステンドガラスの制作作業
普段のステンドガラスの制作を少し見せてもらいました。まずは素材を切るガラスカットの工程です。専用のカッターを使ってガラスに線を入れ、線が付いたらカッターの縁でガラスを叩きて余分な部分を落とします。この作業を繰り返しながら形を作っていきます。
続いて切ったガラスを枠に組み込みます。八田先生のステンドガラスはケイム組みという手法で作られています。“ケイム”は鉛でできた線のことで、とても柔らく自在に曲げられる素材です。このケイムの溝に合わせてカットしたガラスを填めこみますが、正確なカットができないと隙間が生まれてしまいます。溝の幅には大小があり、八田先生が好んで使うのは薄めの5mm。“ごまかしが効かないぶんやりがいがあります”と語っていました。
特集で出品している「ワダツミ」では、さらに細い4mmのケイムで緻密にくみ上げています。ケイム組みの魅力を八田先生はこう語ってくれました。
「ステンドグラスには枠の線があるので絵のような自由さはありませんが、逆に僕にとっては枠という割りを考えながら表現するのが面白いです。この割りの線があるからステンドグラスらしさも出るので、線を隠すのではなく“見せよう”とする意識を持つと、良い線が見つかるんですよ」
素材との出会いが生み出す
一期一会な作品
“ガラスとの出会いは一期一会”と語る八田先生。素材の色や質感を確認するためにはライトデスクが必需品です。波のような質感からグラデーション、3色積層などのいろんなガラス素材を見せてくれました。素材からイメージが湧いて作品が生まれることも多く、そのひとつが今回特集でも紹介した龍をモチーフにしたバンカーズランプ「青龍洋燈」です。
「このランプは青色、白、クリアの3層のガラス素材を見たときに思いつきました。この素材は上の2色がとても薄い層になっているので細かい線が作れて、ヌケも出しやすい。なので、どれくらい細かい線ができるのか挑戦をしたくてこのランプを作りました。特に青色と白色の層は薄いので、繊細に彫らないと白が残らないので、この細かさが限界です」
そんなガラスカットの限界を攻めたというこのランプは、八田先生もお気に入りの一品。満足のいくランプ作品が完成したら、アトリエの電気を消して音楽をかけて、じっと眺めながら出来の余韻に浸ることもあるそう。最後にガラスの魅力について語ってもらいました。
「僕にとってステンドグラスの制作って単純に楽しいもので、作っていて気分もあがります。ガラスって重いし、割れるし、刺さるし、かさばるから場所も必要……でも、綺麗だからそれもしょうがないなっていう。そういうところまで、まとめて好きなんだと思います」
八田先生はステンドグラスだけでなく、ガラス作品の制作で培った“線の表現”を生かした個性的な絵画作品も手がけています。今回の特集では八田先生の絵画作品も販売していますのでコチラをご覧ください。
これやんにとって初めてとなるアトリエ取材記事ですが、いかがでしたでしょうか。ガラスは日常的に触れることが多い素材です。その馴染みのあるガラスにもこんなにもたくさんの種類があり、アーティストならではの視点や類い希な制作技術が加わることで、これまでに見たことがないような体験が得られることが、取材を通して理解できました。
八田先生、ご協力ありがとうございました。
取材・文 これやん編集部