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小島由香×倉本美津留 VRテクノロジーとアートの親和性

世界初の視点追跡型VRハードウェアを開発するスタートアップ、FOVE Inc.のCEOである小島由香さん。ゲームはもちろん、ヘルスケアの分野でも貢献する最新のVRテクノロジーがアートと結びついたとき、どんな可能性が見いだせるのだろう。ここではFOVEというヘッドセットマウントの特徴に加えて、「これやん」というアート・プロジェクトにおけるVR技術の活用法を話し合ううちに、意識を拡張するアートと現実を拡張するVRの親和性が見えてくるという、内容の濃いトークセッションとなった。

見て体感するだけではなく、自分がどうやって
その世界の物語を変えていくかが重要視されていますーー小島

倉本:小島さんが開発しているVR用のヘッドマウントディスプレイ、FOVEは実際にどんなことができるのですか?

小島:人の視線を追跡して感情を読み取る“アイトラッキング機能”を世界ではじめて実装しています。それによって例えばシューティング系のゲームなら、目で見るだけでロックオンがかかって、自動的に撃墜出来きたりもします。

倉本:見た所に発射してくれるって、超能力者みたいですね。

小島:あと、私たちのリアルなコミュニケーションだと目線でコミュニケーションを取ったりするじゃないですか。それをVRでも実現したくて、例えばテロリストに拘束されて脱出を図るゲームだと、ユーザーの目線がテロリストにバレてしまうという。従来のゲームだとコントローラーでA、B、Cから選ぶものを目線で選択して、それによって自動的にストーリーが切り替わるというインタラクション性のある映画もFOVEによって可能になると思っています。

倉本:見る人によって映画の内容が変わってくるということやね。

小島:最近のVRの世界は、見て体感するだけではなく、自分がどうやってその世界の物語を変えていくかが重視されてきています。ですから、何を見て、どんな表情をするかという、非言語的なコミュニケーションでストーリーが変化するようにしていきたいですね。

VRヘッドセットは手が使えないなどの身体的な制約のほかに
距離的な制約がある時にも適していますーー小島

倉本:ゲームや映画以外だと、どんな活用法がありますか?

小島:筋ジストロフィーでピアノを弾く力が無くなってしまった方が、目の瞬きでピアノを弾くというプロジェクトを行いました。単音を弾くキーとコードで弾くキーがあり、目線だと一度に1つのキーしか弾けないのですが、和音のポイントを見て、瞬きで和音のポイントを押すと、和音が鳴るようにしました。現実のピアノでは音を伸ばす時にペダルを踏み込みますが、これは頭の傾きでコントロールできるようにしました。

倉本:手を使わずに、首から上だけでできるってことやもんね。

小島:障害を持って生まれた方々が楽器を弾くことを諦めていることを知って、VRを用いることで何かできることがあるはずだと思いました。今は鍵盤だけですが、将来的にはギターも演奏することができるようになります。VRヘッドセットは手が使えないといった身体的制約のほかに、距離的な制約がある時にも適しています。今、私は横にいる倉本さんと相対してお話をしていますが、もし私がNYにいても倉本さんとVR空間上で話すこともできます。例えばアバターを用いるとしたら、ヘッドセットでリアルタイムに表情を読み取り、アバターに表情をトレースすることもできます。最近ではVR空間で麻雀をやったり、クラブがあったりもして、いろんな人がアバターになって活動している世界が広がっています。

倉本:確かに表情があれば、こちらが言いたいことがもっと伝わりますね。

小島:一番年配のユーザーさんは愛知県に住んでる寝たきりのおばあちゃんでした。赤坂で行われたお孫さんの結婚式に参加したかったのですが、愛知県から動けなかったので、おばあちゃんが操作するペッパーくんを現地へと送り込みました(笑)。おばあちゃんはロボットとして参加したので、式中の映像をリアルタイムで見てもらい、お嫁さんが抱きついていたりと、臨場感のある映像を体感してもらいました。

作品を作っている目線をVRを通して体感できれば、
面白いことになる気がしますねーー倉本

倉本:そうか! ライブとの関係性も、見ているんじゃなくて、その場にいるという。これは普通の人に理解しやすいし、すぐにでも使いたいですね! 例えばこれやんに参加するアーティストが、アート作品を作っている目線をVRを通して体感できれば、面白いことになる気がします。VRを用いることでアートがもっと身近になったりのかもしれないですね。

小島:そう思います。アートの世界って取っつきづらい人もいると思うんです。でも、制作の過程を仮に360°で撮影しておけば、その場にいてどんな風に作っているのかが見られて、まるで体感しているように見ることもできます。最近はルーブル美術館をVRで再現したいと思っていて、そうすれば「モナリザ」も“0分待ち”で見られますよ(笑)。

倉本:0分待ちって言い方、いいなあ。僕が「これやん」でやりたいと思っていることはバーチャルの逆だったりもします。海外だと家にアートがあるのが当たり前だけど、日本はまだその感覚が薄いんですよ。でも、家にアートがあると、それによって心が刺激を受けてフレッシュにもなるし、アートはそういう意味でもスイッチみたいなもの。それが “これやん”を起点に日本にも浸透していったらいいなと。例え何百万もするような作品ではなくても、アーティストが作った世界にひとつしかない芸術作品を買って家に置くことって、手に入らないものをリアルに手に入れることのようなものだと思っています。でも、それと今、小島さんが言った、手に入らないものをバーチャル世界で手に入れるということとも、近いのかなって思いますね。

VRの世界で絵を描くと平面空間で描く絵と違い
描いた絵に彫刻のような立体感が生まれますーー小島

小島:確かにそうかもしれません。例えば「これやん」のアートを展示する空間を360°撮影してVRで見るのも、導入するひとつの手だと思います。今、スマートフォンをダンボールに差し込むだけでVRヘッドセットとして使える物もありますね。あとは今、VRの世界で絵を描くツールが流行っていて、平面空間で描く絵と違いVR空間には奥行きがあるので、描いた絵に彫刻のような立体感が生まれます。

倉本:それを彫刻家のアーティストにやってもらったら面白そうですね。

小島:すごく面白いものができると思います。最近のVR映画だと、そういう風にどんどんキャラクターが出来て、それをリアルタイムで紡いでいくこともできます。VRとともに広がりつつあるARには“拡張現実”という意味合いがあり、人間の感覚を拡張させるアートとは親和性が高いと思います。ですから、アーティストの方がどんなクリエイションをされるのか見てみたいですね。

倉本:あと、“これやん”とVRがコラボするとなったら、ほかにもできることって何かあると思いますか?

小島:VRに向いているという意味では、立体作品に入れるとかですね。その作品のなかに自分が入って座って見るという体験ができたりもします。あとは拡大・縮小が自由自在なので、めちゃくちゃ大きくしてみたりとかもできます。住宅事情的にも家に置く作品は小さめが現実的かもしれませんが、ヘッドセットを被れば壁画サイズにもできますね。

倉本:そういう体験的なブースを今後、“これやん”で展示企画などをするときにやったら面白そうですね。

プロフィール
小島由香。ソニー・インタラクティブエンタテインメント、グリーを経て2014年にFOVEを設立し、目の動きで仮想空間を操作する視線追跡型VR用ヘッドセット「FOVE 0」を開発。2015年にKickStarterのクラウドファンディングで48万ドル超を集め、サムスン・ベンチャーズをはじめ、さまざまな資金調達プログラムを実施。「経済産業省実用化大賞」などを受賞し、若手起業家として注目を集めている。

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