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高橋キンタローと語る芸術談義 ~新しい才能を発掘する楽しさ~

多方面で活躍するイラストレーターとしてのみならず、若手のアーティスト発掘にも力を注ぐ高橋キンタローさん。これやんに作品を出品していただくための取材のなかから、高橋さんが監修を務めたウルトラセブンの企画展「70 CREATORS' SEVEN」をきっかけに、倉本と盛り上がった対談トークを掲載します。高橋さんならではの“間違い”という感覚や、アートの現場で感じることについて語ってもらいました。

「70 CREATORS' SEVEN」は“間違っている人が
世の中にいることの面白さ”がテーマでもあったーー高橋

 

倉本:僕が高橋キンタローさんのことをしっかり認識したのはウルトラセブンの企画展「70 CREATORS’ SEVEN」でした。ウルトラセブンをテーマにいろんなアーティストに描いてもらうというコンセプトが面白くて、誰が企画しているのかと思ったらキンタローさんでした。キンタローさん自身もこの展示で作品されていてその内容もすごく良くて、”知り合いになりたい”と思っていたんですよ。キンタローさんは絵を描くだけでなく、いろいろなお仕事を手がけていますね。

高橋:いやいや、僕はイラストレーターでしかないんです。でも、22~3歳の頃からデザイナーとは名乗らないものの、「宝島」をはじめとした雑誌のデザインをやっていました。もちろん当時から正しいアートディレクターは山ほどいましたが、僕は学校出てすぐ「宝島」のデザインをやったので“正しいデザインではなくて、外し方の面白さがいい”ってどんどん勘違いされていって。ファッション誌のアートディレクターをやるようになった30代半ばの頃に“これはあまりにも間違っている”と思い、ある日突然、そういった仕事を全部断わるようになりました。そうはいってもデザイン自体は好きなので、今でも仕事とは名乗らずにやっています。そういった流れもあり、イベントの企画をやることも増えていきました。「ウルトラセブン」って誰でも知っている存在だし、ちょうど50周年なので山ほど企画があったんです。ところがある編集者がウルトラセブン直系のイラストレーターやコミック作家のみならず、ウルトラセブン見てから50年経ち、ヘンな大人になった人たちを集めようと言い出したんです。

倉本:僕自身がそうですよ。ウルトラセブンにはいろんなジャンルの人が影響を受けていますからね。

高橋:先述した編集者に“監修をお願いします”と言われたので、”僕は正しいことはやらないよ”って言ったら”それでいいです”と言ってくれて、あの企画ができあがりました。豪華な画集を作ったのですが出版社は大変でしたね。ウルトラセブンってまともに作ったら絶対売れるのに、あれだけの手間かけてあれだけの作家が集まったんだけど、対象者を限定しますから。出版社に感謝です。

倉本:確かに、あの画集は贅沢な作りでしたね。僕は買いました。

高橋:あの企画は“間違っている人が世の中にいることの面白さ”がテーマでもあったんです(笑)。確か倉本さんはたまたま、僕がいた時にいらして、しりあがり(寿)さんの作品を、面白がってくれていましたよね。

倉本:ええ、しりあがりさんの作品を購入しました。アート作品を購入するってちょっとハードルが高いじゃないですか。でも、世界に一個しかないものが少し奮発すれば手に入るのなら、買ってみるべきだと思ったあの瞬間から、自分が変わった気がしています。キンタローさんは新人アーティストを世に紹介するための展示なども主催されていますよね。

“正しいことを知らないうちに何かを始める”お年頃があって
そういうところを見逃したくないーー高橋

高橋:ええ、面白い人はどんな時代でもつねにいるんです。世の中の出来上がった情報の中で判断することで仕事は生まれますが、その前の段階で“正しいことを知らないうちに何かを始める”お年頃があって、そういうところを見逃したくないんです。間違いも山ほどありますが、それはそれで楽しい。で、そうやって見ていたなかで、今ではとんでもない存在になった人がいたりもして。一緒に間違いをしていた仲間が……みたいなのがあるから、やっぱりその場にいたいと思うから、そういった展示を企画したりしています。

倉本:確かにそういった若いアーティストを紹介する場が絶対に必要ですよね。それに加えて、作品が手に入るって状況を作ってあげたい。

高橋:僕はジャン・ミシェル=バスキアとほぼ同い年ですが、20代の終わりくらいに当時、まだあまり知られていなかったバスキアの展示があり、その時はかなり大きな作品でも軽自動車1台分くらいの値段だったので、すごくほしかったんです。でも結局、悩んだあげくに諦めましたが、情報もろくにないのに、出会ったものに惚れることができる自分が嬉しかった。バスキアはわかりやすい例ですが、まったく知らない若い作家の作品も僕はけっこう買っていますね。そういう自分が嬉しいところもあって、ちょこちょこ買ってしまう。飲み会で1万円払うなら、学生に毛が生えたような作家の作品が買えちゃうじゃないですか。さっきから“間違い”の話をよくしていますが“何これ?”って言われるような作品でも、自分が持っているものは全部間違っていないと思っていますし、その自信があります。もちろん、それが人に伝わるかどうかは怪しいですけどね(笑)。

一般の人をアートに近づける仕組み
キンタローさんがやっていることってすごく芯が通っているーー倉本

倉本:ウルトラセブンをデザインした成田亨さんはシュルレアリストだったりもして、そういったアーティストが怪獣を作って、それを子供が大好きになって、それに影響を受けておかしな大人になっていくという循環が生まれていて。だから、あれは一般の人をアートに近づける仕組みになっていたんだと思いますね。そういう意味ではキンタローさんがやっていることは、すごく芯が通っている。

高橋:僕はイラストレーターなのでメディアアートが大好きです。現代美術も全部好きですが、作品そのものよりも複製物が好きですね。 今はこうやって展示を企画して作品を売ることもやっていますが、メディアアートを中心に紹介しています。いわゆるイラストレーションの類になりますが、わかりやすくポップで何万円の作品が何百万枚って売れるタイプの人もいれば、もっと少ない数で勝負する作家もいます。今、メディアがこれだけ広がり、可能性が増えているからこそ、原画に触れることが必要になってきているというか、そういった原始的な部分が実はすごく動き出している、というのを実感しています。だからこそ、僕はそういった現場にいたいと思っています。

倉本:原始的と言えば、僕が「これやん」でやっていることも、ウェブを使っていかに原始的にやるかということに挑戦しているつもりです。作家さんと直接会って話してもらった会話や、作家さん本人の写真を載せたりすることもそれにつながっている。今の時代の流れの中で、今の時代らしい表現だけれども、いちばんミニマムなところとつなげるっていうのが、もしかしたらいちばんやるべきことだったり、新しいことなのかなと思ったりもします。キンタローさんはそうやってアーティストの原石をずっと紹介してこられたわけで、共通点を感じますね。

高橋:僕は紹介するような立場でもないので、ディレクターっていう名乗り方も基本的にはしてはいませんけど。

倉本:でも、結果的には紹介していますよね。むしろ好きなものを放っておけないという、僕もそういった感覚は近くて、自分の損得は置いておいて“この才能は消えたらあかん!”って、お節介にも思ってしまいます(笑)。

高橋:ほんとにそうです。今の若い人は瞬発力を発揮する場がないから”一緒にやろう!”ってことで企画をやっています。お節介だって言われたくないから、あんまり頑張らないようにはしていますけど(笑)。

高橋キンタロー先生の作品はコチラ

多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。すぐにフリーのイラストレーターとして「宝島」などのカルチャー誌やファッション誌でADも担当するようになる。広告、CM、ディスプレイ、エディトリアル、パッケージ、CDジャケットなどを手掛け、TV「ひらけポンキッキ」などのアニメーション制作や出演も。イベントや展示のキューレーション、出版企画も行い、個展、企画展多数。ヒロ杉山との「WAVE展」や伊藤桂司と組んだ「CONTEMPORARY CHIC展」をはじめユニークな企画を主催するほか、アート系ノイズバンド、OBANDOSのメンバーとしても活動している。

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