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藤川欣智(パークホテル東京)×倉本美津留 ~日本の現代アートの発信基地になるために~

2020年2月17日より開催が決定したこれやん初の企画展「いんすぴ」これやん展。その会場であり、共同で企画を行うことになったパークホテル東京は、国内に広まりつつある、アート・ホテルの先駆けとも言える存在だ。そもそもこれやんはパークホテルに注目していて、このホテルを紹介する記事を作るつもりだったが、これやんの倉本とパークホテル東京にてアートプロジェクトのディレクターを務める藤川欣智氏のアートに対する熱い思いを共有して意気投合し、この展示企画へと発展した。その発端となった対談記事をご紹介したい。

日本の良さや日本の文化を伝えたいと考え、
それを表現する手段がアートでしたーー藤川

倉本:パークホテル東京は国内のアートホテルの先駆けのひとつとされています。その出発点を教えてもらえますか?

藤川:私どものホテルは2003年にドイツに本拠地のあるDESIGN HOTELSの都内初の加盟店としてオープンしました。その後、アートホテルへと舵をとったきっかけは2011年の東日本大震災でした。それまで半数を占めていた海外からの観光客に加えて、日本人のお客様も激減すると、都内ホテルの安売り合戦が始まり、その頃はまさにどん底でした。その時に“日本の、さらには東京のど真ん中にあるホテルとして何ができるのか?”と、あらためて考えました。そして、日本の良さや日本の文化を伝えたいと考え、それを表現する手段として出てきたのがアートでした。

倉本:日本の文化を伝えるという考えからすると伝統工芸のような、よりドメスティックな手法もあったと思いますが、そこがアートだったのは新しいと思いました。

藤川:例えば私たちのホテルの立地が京都なら、いたるところに伝統の文化がありますが、東京であるべき表現といったら“現代アート”じゃないかと。ちょうどそういった方向性を模索をしている時に、仕事で越後妻有の「大地の芸術祭」に足を運び、とても感動しました。アート作品が町中のいたるところにあって、普通の土手や田んぼまでがアート作品に見えてくる。 そんな雰囲気がホテルにあったらすごく良いし、しかもそれで日本を表現するようなものができたらいいなと思ったんです。その頃はまだ安直でしたが、アートで過疎化した地域が活性できるならホテルの一軒くらい、なんとかできるんじゃないかと思っていました(笑)。

倉本:アートがカンフル剤になるというのは、地域でも空間でも同じですよね。

藤川:そんな勘違いをして頑張ろうという気になっていました(笑)。

アーティストルーム紹介[江戸-東京]

作家のふるかはひでたかさんが手掛けたシングルルーム。2016年の東京の景色と江戸の風景を重ねて描かれている。スカイツリーや東京タワー、日本橋などの東京のランドマーク、近景・遠景には歌川広重の浮世絵を印象し、東京の過去と現在を対比できるようになっている。

アートに理解のある宿泊客にとっては
より深く日本を感じられるチャンスになっているーー倉本

倉本:でも、勘違いはとても大事だと思います。そういったものにエネルギーを注ぐと新しいものが生まれますから。一般的に東京都心は観光が目的で、ホテルは休んだり、くつろぐためのイメージがありますが、パークホテル東京はホテルと美術館の中間という感じですよね。それこそ作品をひとつずつじっくりと見ていたら外出する時間がないというか。パークホテル東京には美術館の規模に匹敵する量の作品があり、それがホテルの機能と連動していて、しかも宿泊する部屋では“作品の中で過ごせる”という。

藤川:そう言っていただけると嬉しいです。もともと“美術館の中に宿泊施設があったらどうだろう?”という考えを持っていました。ホテルは宿泊施設ですが、その枠を逸脱しないと変わらないし、強みも作れない。ホテルに求められているのは、安全に寝ることができる場所ですが、どうせなら“ここに泊まった”という記憶を残したい。さらに欲を言うと“日本でよかったね”と感じてもらいたかったのです。

倉本:日本の現代アーティストが、日本人の遺伝子を引き継ぎながら表現しているので、アートに理解のある宿泊客にとっては、より深く日本を感じられるチャンスになっていると思います。例えば、パークホテル東京の一室を手掛けていて、これやんにも参加していただいている尾頭-OZ-山口佳祐さんなんて、浮世絵のような日本の技法をちゃんと引き継ぎながら、すごく現代的なアートを生み出している。そういうものが分かる感性を持ったお客さんにとって、ここはまさにぴったりの施設ですよね。

アーティストルーム紹介「歌舞伎」

これやんにも参加するOZ-尾頭-山口佳祐さんが制作したキングルーム。歌舞伎の新春公演などで披露される演目「矢の根」をモチーフに、曖昧さとリアリティを内包する日本の美を壁に表現。クローゼット内に描かれた浄瑠璃、歌舞伎のシーンが飛び出てくるかのようなバスルーム、部屋内のどこへいってもアートを感じることができる。ちなみにヘッダーの写真はパークホテル東京のエレベーターホール“間”(はざま)で、こちらも彼が手掛けた空間だ。

アーティストルーム紹介「招き猫」

画家の美濃瓢吾さんが制作したクイーンサイズのルーム。美濃さんがモチーフとして描く妖怪“猫又”も混ざり込んだ正体不明な招き猫、その間に書かれているのは夏目漱石の俳句が書かれていた。壁一面に描かれた不可思議な招き猫たちに圧倒され、まるで自分が異世界に感じられるような空間だ。

 

部屋を一室まるごとアーティストに任せるのって
度胸のいることだったと思うーー倉本

藤川:私たちのホテルは2011年から“日本の美意識が体感できる時空間”というコンセプトを掲げていまして、これをホテルのことだと思う人はあまりいないと思います(笑)。そして1~2年前くらいから“もっと日本を好きになっていただきたい”という思いが強くなってきて、このコンセプトでいかにそれを実現させるかがミッションになっています。

倉本:本来、アートのための施設ではないところが、アートとコラボすることで新しいものが生まれてくる。そういう取り組みはアートにとって、極めて大事なことだと思うんです。 意外なものが混ざり合うことで新しい何かが生まれるっていうことを、パークホテル東京は現実化したのだと思って興奮しました。

藤川: 25階のアートラウンジには伝統工芸、現代工芸、現代アートがあって“混在しているね”って言われるんです。でも、それがいいんじゃないと思っていて。

倉本:カオスが良いんです(笑)。話していると藤川さんは僕が普段から思っていることと似ていて、そんな方と出会えてとても嬉しいです。パークホテル東京の目玉でもある、アートの中に泊まれる部屋“アーティストルーム”ですが、そもそもホテルの顔にもあるお部屋を一室まるごとアーティストに任せるのって、度胸のいることだったのではと思います。

藤川:そうなんです。ですから、他のホテルさんからも“よくやったね”って言われます(笑)。「アーティストルーム」を作ったときは公募をして、金額もオープンにしていました。

倉本:なるほど、一律にしていたのですね。

藤川:はい、“それでやってくれる人”ということでお願いしています。その代わり、半永久的にホテルの中に作品が残るという。だから有名なアーティストというよりも、気鋭で注目されている若手の方が多いです。ただ、私たちとしても部屋を作って終わりにしたくはなかったので、“アーティスト・イン・ホテル”と銘打ち、作品を作っている間はホテルに泊まっていただけるようにして、朝食はラウンジでお客さんと、昼と夜はホテルの食堂で従業員と一緒に食べていただきました。それによってコミュニケーションも生まれるし、一回作って終わりにはならないような、つながりを作りたいと思っていました。

アーティストルームに泊まることで
“ここが自分の部屋だ”と思えてくるーー藤川

倉本:以前に尾頭さんにアーティストルームについて話を聞いたのですが、“大事に泊まってもらえる”と言っていたのが印象的でした。

藤川:アーティストルームは壁に直接、作品が描かれているので、汚れたり傷がついたりするのを心配していましたが、普通の部屋よりもアーティストルームのほうが、綺麗に保たれていることに気がつきました。お客様にもアートの作品に泊まっているというリスペクトを持って、使っていただけているのだと思います。アーティストルームの利用者は海外のお客さまが多く、数日~1週間滞在される場合が多いですが、ホテルに帰ってくるというよりも“自分の部屋に戻ってきた”という感覚を持つ方が多いようです。どこにでもある似たような“ホテルの部屋”とは違って、アーティストルームに泊まることで“ここが自分の部屋だ”と思えてくるんですよね。

倉本:確かにアーティストルームに滞在している間は、部屋も美術品も“所有している感覚”が生まれるんでしょうね。それは大きな体験だと思います。

藤川:一般的にホテルの部屋の値段は広さによって決まり、私たちのホテルの部屋の広さは狭い部類になりますが、アーティストルームは同じ広さの一般的なルームよりも高い値段に設定していて、それでも良い稼働率をキープできています。よく“アートで儲かるの?”と聞かれることがありますが、アーティストルームはその疑問に対するひとつの結果が出せたのではと思います。

倉本:アーティストルームに泊まるのは、その価値がわかる人だから“少しくらい高いのは当たり前”だと思っているんでしょうね。それに、滞在して部屋の作品を毎日じっくり見たら、いろんな新しい発見があると思いますよ。

藤川:美術館でひとつの作品を見る時間は、おおよそ10秒と言われています。しかし、作品が置いてある部屋に泊まれば、好きなだけその作品を見ることができ、そうすることで作品の見え方が変わってくるんです。そこがアートの良さであり、奥の深さだと思っています。

倉本:そうなんです。アートはじっくり見てこそ発見できることが多いですし、そのアーティストのエネルギーまで見えてくる。つまり、見れば見るほどに作品の価値が上がるわけです。だから家にアート作品を置くことは生活を豊かにするうえでも大事なことで、「これやん」もそれを推奨するためにはじめたサイトなんです。日常的にアートがあればじっくり何度も見直すことができて、さらにその都度新しい発見がある。パークホテルのアーティストルームに泊まったら、そういうことが体験できるわけですね。

この対談で意気投合した倉本と藤川氏は、これやん初となる企画展「いんすぴ」これやん展を、パークホテル東京とのコラボレーションとして開催することになりました。これやん、パークホテル東京に所縁のある60人のアーティストに、それぞれ日本語のことばを“お題”として提示し、そのことばをテーマに制作した60の作品を展示します。ことばと現代アートが生み出すインスピレーションは、表現者と受け手が共有できるものなのか、その“答え合わせ”をするためにもぜひ足をお運びください。

いんすぴこれやん展

 

「いんすぴ」これやん展

期間:2020年2月17(月)~3月24日(火)
会場:コリドー ギャラリー34 at パークホテル東京
主催=これやん、パークホテル東京

参加アーティスト:安西泉、安東和之、池田千鶴、伊藤香奈、稲石とおる、今井完眞、内田有、江頭誠、大河原愛、大串ゆうじ、大谷陽一郎、大平真梨、大村雪乃、奥島圭二、奥村巴菜、OZ-尾頭-山口佳祐、香川大介、角文平、金谷裕子、カネコタカナオ、金澤シュウ、北奥美帆、KYOTARO、京森康平、久保進、小飯塚祐八、小林真理江、サガキケイタ、櫻井美佳、佐野景子、清水智裕、しりあがり寿、新直子、鈴木杏、鈴木香南、鈴木ひょっとこ、高石優真、高橋キンタロー、田川秀樹、竹村東代子、田羅義史、cicci、千原徹也、土田圭介、坪島悠貴、中村圭吾、中村眞弥子、はっとり♡かんな、HABUJUN、HUIT、平井豊果、ひらのまり、ヒロ杉山、福本歩、前田恭兵、松枝悠希、松本亮平、山下健一郎、山田勇魚、若佐慎一

※展示に加え、60の作品を用いて感覚的に遊べるカードゲーム“いんすぴ”の制作も予定しています。こちらはmakuakeのクラウドファンディングにて資金調達を予定しています。詳細は追って、これやんのホームページにてお知らせします。

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