Prismatic cosmos
作品概要
- 制作年
- 2019年
- 使用素材
- 特殊フィルム、アクリル、ガラススフィア
- サイズ
- 220mm(幅)×220mm(高さ)×50mm(奥行き)
これやんの作品コメント
STORY
倉本:東京藝術大学では彫刻を学んでいたんですよね?
小川:そうです。神奈川の片田舎で三浪してから藝大の彫刻科に入ったので、その時点で頭がカチコチになっていました。で、入学してみると、先生たちは彫刻作品が“立つ”ことに重きを置いていたのですが、あまのじゃくな僕は、壁に寄り添っていて立たない女性の身体の彫刻を作ったのですが、“これじゃ立っていないね”と評されたので、違うことをはじめました。最初はテラコッタを焼いたり金属加工をしたり、大学院では樹脂をはじめたりと、いろんな素材で作品表現をやっていました。僕が学んできた彫刻という分野は基本的に光と影だけで、“色が扱えない”というコンプレックスがありました。でも、この素材を使うと勝手に色が出てくれるので、それをどうやって複雑に発色させるかということで、今の形態になりました。
倉本:でも、これは色があるようでないんですよね。
小川:はい、色は一切ついていません。金属の粉をフィルムに蒸着させていて、光が当たると反射した光が見えるという素材です。いわゆる構造色なので、月明かりだと無色透明になってしまいます。同じフィルムを使っても背景色を変えるだけで色も大きく変わります。
倉本:その色への着想のもとには、小川さんが好きな宇宙とか自然界の光現象があるようですが。
小川:はい、もともとネットで探した宇宙望遠鏡の画像が好きでした。それで、本当にこういう風に見えるのか調べてみたら実はそれは嘘で、元素記号は出てくるけどそれに着色しているというのを聞き、色にも現実と嘘があることを知りました。それに影響を受けて、僕の作品は虚像と実像が裏のテーマになっています。僕の作品は一見して“綺麗”だと言われますが、実は作品の構造体が大事でもあって。でも、それを無視して色だけを見てしまう人間の性が面白いと思っています。
倉本:その構造体についても詳しく教えてもらえますか?
小川:今説明した宇宙の画像のような色味を、作品でどう表現したらいいかを試行錯誤しているときにこのフィルムを見つけました。この素材自体は数十年くらい前からあるものですが、ただのシール状のフィルムなので、カッティングシートみたい窓ガラスに貼って見せるという使い方くらいしか見たことがありませんでした。そこで僕はフィルムを隠して、その上に載せる構造体で見せるというやり方をしています。フィルムの上に3~4層くらいのアクリルの層を接着していて、全層に透明な接着剤がつくと光がストレートに反射しますが、どこかしらに接着剤がないと屈折が生まれて色が拡散して、複雑に見えます。そうやってフィルムと透明な素材と加工の組み合わせを実験しながらデータを取って、それを組み合わせて作っています。
倉本:思い通りの反射が得られるまでには、試行錯誤がありそうですね。
小川:この滑らかなアクリルのフォルムを作るのは本当に苦痛で、ひたすら紙やすりで磨いています。機械で磨くこともできますが、そうすると細かい凹凸がなくなって微妙な色合いが出ないので、あくまでも手磨きにこだわっています。たまに“チームラボみたいだね”って言われますが、ああいったデジタルの最新技術は駆使せず、アナログに特化して延々と手で磨いています(笑)。