空白
作品概要
- 制作年
- 2018年
- 使用素材
- 本画仙手漉き二層紙
- サイズ
- 464mm(幅)×586mm(高さ)
これやんの作品コメント
STORY
倉本:書道はずっと昔からやられていたのでですか?
矢野:小学校1年生からお習字はやっていましたが、“書”をはじめたのは17歳の頃です。ちなみに“書”は”お習字”のようにお手本通りに書くのではなく、心の中にあるもを、筆を通じて書きます。父親と一緒にお習字を習っていたのですが、18歳で父が亡くなってしまい先生に“辞めます”とお伝えしたところ、先生に筆をいただき“書きたいものを書きなさいと”言われて書いたのが”淋”という字でした。それを先生に公募展へ出品していただき、審査員のおじいさんが私の作品を見て“こりゃ、淋しすぎだな”って言われ、当時の私にとってはそれが褒め言葉に感じました。
倉本:それは淋しい気持ちがちゃんと相手に伝わったということですからね。
矢野:私の表現は“これでいいのかな?”と思って書いたのですが、私の書を見てその場で泣いてくれる人がいて、その時に自分が思ったことを書くと、それは他人にも響くのだと思いました。
倉本:矢野さんと言えば“無敵”と書いた作品が有名です。この作品はバッジになっていろんな歌手や俳優さんの著名人が付けていましたよね。
矢野:あれは30年前くらいですね。私は書で自分のなかにあるものを吐き出していましたが、そのときは何も出てこなくて“無”でした。そうして書いた“無敵”という作品が何十年も経ってから、いろんな展示で“あの書を貸してほしい”と言われるようになり、バッジになったとたんに多くの人に知られるようになりました。
倉本:矢野さんが書いた無敵は“敵もいなくてすべてが味方”という意味でしたよね。例え病気になったとしても、病原菌さえも敵ではなく、自分の仲間にする事で健康になっていくというか。だからこそ、いろんな人がその文字を勧めたくなったんだろうと思います。矢野さんは太い筆から細い筆までいろんな作品がありますね。
矢野:細い文字は長い筆を使っています。短い筆は力が伝わりやすいから簡単に書けますが、長ければ長いほど気持ちが伝わりにくくなります。でも、それが楽しくもあるし、細い筆で描いた作品のほうが人にダイレクトに伝わることもありますね。
倉本:哲学的ですね。心の入れ方がその都度変わってくるんですね。書く言葉は書きながら決めるんですか?
矢野:想いが心にあった時に出てきます。もちろん書きながら決めることもありますし、同じ言葉を書きながら何百枚も溜め込んでいくこともあります。私の落款は私の師匠が押すので、書き溜めたなかから一緒に選んでいます。なので「上出来」って書いた時は、ちゃんと上出来にしようと思ってきちんと書こうと思っていました。でも、何枚書いても書けなくて、結局終わりを決めて選びましたが、私の”上出来”はこれだったってことですね(笑)。