空気(の)椅子
作品概要
- 制作年
- 2012年
- 使用素材
- ガラス、空気
- サイズ
- 360mm(幅)×750mm(高さ)×380mm(奥行き)
これやんの作品コメント
STORY
倉本:佐野さんは息をガラスに吹き込み、“空気”を表現しているアーティストです。まずはどういう経緯でこの道に入ったのかを教えてもらえますか?
佐野:大学生の頃にガラスで物を作ったときに、この素材の不思議さと美しさに惹かれて、これで作品を作りたいと思いました。その後、ガラス造形研究所で工芸を勉強しながら、ちょっと悩んでいる時期に、工房に捨てられていた吹いたままのガラスを見て、“これが一番おもしろくてきれいなのは何でだろう”と思ったんです。
倉本:なるほど、吹きガラスの残骸が生みだした発想でもあったんですね。
佐野:吹きガラスは紀元前1世紀に生まれた器作りに適した技法ですが、それ以外の見方でこの技法を捉えられないかと考えていました。物作りには削ったり付け足したり切ったりと、さまざまな工程がありますが、吹いた息がそのまま形を作るのは吹きガラスしかないし、やっぱりこれはおもしろいなと感じて、それを端的に見せられるような作品を作りはじめました。
倉本:それがビニール袋に息を吹き込んだ作品へと通じているんですね。あれは実際にどうやって作っているのですか?
佐野:実際、ビニール袋に“ふうー”って息を吹いて、それと同じ体積の粘土で型どって、ガラスを吹き込めるような型に起こします。そこに実際に息を入れて蓋をして作ります。風船の作品は型を使わずに、私の肺活量だけで“ぷーっ”と吹いているだけです。ちょっと図々しい発言だと思うのですが、これらの作品は自分の息が美術作品としての価値を持つのではないかと思って作っています。それもあって、ほとんど価値がないというか、あえて安く買えるビニール袋や風船をモチーフにしています。
倉本:佐野さんの作品は無色ですし、まるで工業デザインのようなシンプルな質感がありますね。
佐野:やっていることが、今説明したような発想がもとになっているので、それを美術作品としてつなぎ止めるには、物としての緊張感や完成度の高さが必要だと思っています。なので、物としての美しさには気を遣っていますね。
倉本:最近、“息”をテーマに取り組んでいる作品は何かありますか?
佐野:最近はシャボン玉をモチーフにして、自分の一息を定期的に吹き込み、日付を入れて、自分の記録を残すというライフワークのような作品を作っています。ガラスは保存容器として長けていますから、ガラスに吹き込んだ私の息は何百年も残る可能性もあって、うまくいけば未来の人に私の作品が“古代人の息”として発見されるかもしれないけど、割れてしまったらその瞬間に外の世界の空気に戻ってしまうというストーリーに面白さを感じています。ロマンチックな話だと思いますが、古代に作られたガラスを見たときに今とやってることが変わってないことを知って、古代人に対してシンパシーを感じたんです。だからこの作品が残れば、もしかしたら私も古代人になれるんじゃないかなって、思っています。