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美しい時間の肖像 -サンダル-

山本優美Masami Yamamoto

作品概要

制作年
2014年
使用素材
陶土
サイズ
105mm(幅)×95mm(高さ)×225mm(奥行き)/右
90mm(幅)×90mm(高さ)×225mm(奥行き)/左
販売価格¥(税込み)

これやんの作品コメント

「SICF14」のグランプリ受賞を機に陶を用いた現代美術作家として注目を集める山本さん。匿名の誰かが使っていた衣服を陶を彫り込んで再現したシリーズのなかから、サンダルをテーマにしたのがこの作品。陶土を焼いた時の収縮率を計算することで、現物のサンダルとほぼ同じ大きさを再現しています。履き込んだ使用感の再現ぶりにも驚かされます。
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STORY

倉本:山本さんは焼き物を“記憶メディア”として捉えた作品を作っていますね。

山本:もともと私は人が生活の中で積み重ねる時間や記憶に興味があり、10年ほど前は誰かが使ったであろう宝石箱やラジオ、写真立てなどの古い道具の型を取り、焼き物に置き換えるという作品を作っていました。

倉本:それが現在の衣服を再現する手法へと変化したのは何がきっかけでしたか?

山本:古いハンカチの束を焼き物にしようとしたときに、石膏で型をとると布が水分を含んで自分のイメージ通りにならないと思い、ハンカチの原型を手で彫って型を取ったのがきっかけでした。焼いたときにしぼむんでしまうのと、型から最終的には取り外すときに食い込んだ細部が外れなかったりもして、型では物足りない感触があったんです。それに加えて、ハンカチの束を掘る作業が生理的にしっくりときたこともあり、彫ることで複雑なシワの入り組みを表現でき、本来柔らかいイメージの布が焼かれることでカチっとした真逆の質感に変化するギャップに“これは面白い”と、直感的に思いました。この感覚を表現できるものについて考えたときに、自然に洋服に興味を持ちはじめました。

倉本:手で彫って作っていたんですね! 具体的な制作方法についても教えてもらえますか?

山本: まずモデルとなる服を横に置いて、焼いたときの収縮分をプラスしたサイズで、粘土の大きな固まりを作ります。それから金属を丸めた自作道具でレースの穴やステッチなどを彫りますが私の認識やイメージが入るので、実物にそっくりでも3Dプリンタとは違って人の手が生む歪みや揺らぎに加えて、彫るという行為と時間が編み込まれています。衣服の細部を精密に表現することで、より人が身につけていた存在へと近づいていく……その感覚が制作のモチベーションになっています。私の作品作りにはたぶん……愚直という言葉が合うと思います。テクニックというよりも執念というか、それもあってたまに“怖い”と言われることもありますね(笑)。

倉本:なるほど。表現方法としては彫刻に近いんですね。

山本:そうですね。私も陶芸というよりも現代アートにアプローチしている意識があります。工芸のメジャー素材である“焼き物”を使い、どうやって現代的な感覚や美術の表現に接続できるかということに学生時代から興味がありました。

倉本:山本さんの作品は実際に使用していた人が分かるものとそうではないもの、いずれも実物となるモデルがあるわけですが、どんな対象物を見たときに作りたいと思うのですか?

山本:その服に共感できるかどうかですね。つまり、そこには自分の価値観が入っているわけで、他者の姿や時間を借りながら自分の存在を重ねていることに、最近気がつきました。高級であるとかではなく美しいと思えるかどうかが大切で、どんな場所を歩いていたのかを想像したくなるように踵が削れた靴など……そういった着古された感じも美しさのひとつだと思っています。