猫-春を待つ
作品概要
- 制作年
- 2024年
- 素材
- 土(信楽・焼き締め)、象嵌(焼き締め)
- サイズ
- 240mm(幅)×240mm(高さ)×140mm(奥行き)
- 特筆事項
- 桐箱無し。箱有りの場合の販売価格は286,000円(税込み)になります。
これやんの作品コメント
STORY
これやん:もともとは大学で日本画を専攻されていましたが、そこから陶芸の道を歩んだのはどんな経緯でしたか?
大塚:学生だった1990年代、私も現代美術の影響を受け、日本画で抽象的な表現を模索していました。顔料を使わずとも表現できるのではないかと思い、陶土に膠をまぜて手で描いたりしていました。でも、平面での表現に行き詰まりを感じていて、あるとき陶芸教室に通ってみようかと思いました。実際にやってみたらまったく思ったような形にできなくて……そこから逆にこれをやってみたいなと思いました。
これやん:逆転の発想というか、できないものに惹かれたんですね。
大塚:二次元の絵画を描くのはイメージの世界でもっと頭を使うというか、そこに行き詰まりを感じた私にとって、土と身体を使った表現は、心の安定を感じる要素もありました。それもあって、より身体的に形を作りたいと思いました。陶芸をはじめたときから女性像の顔、猫、茶碗を作っていて、それは今でも変わっていません。
これやん:そのなかでも猫は、大塚先生の代表的なモチーフのひとつですね。
大塚:猫は幼少期からずっと一緒に暮らしていた存在でした。それと古代エジプトの聖なる猫の像が、自分にとっての“原点”でもあって、その形を動かしてみたいという思いがありました。神聖なものは静止した形で存在しますが、それが動いたらどうなるんだろうと。それが今の私のシリーズでもある「ふりむく猫」へとつながっています。
これやん:エジプトの猫をはじめとした、古代の原始美術に興味を持ったきっかけは何でしたか。
大塚:岡本太郎さんからの影響もありました。“自分の原点を見つけろ”というような彼の言葉があって、私なりにその原点を見い出すために、アフリカ美術や世界の原始美術を追求しました。原始を生きた人々が持っていた宇宙観と、想像力豊かな造形、それは私の制作のアイデンティティにも繋がっています。素材にテラコッタを使うのも遺跡から発掘される焼き物の素材であり、古代を感じさせる土の肌感に魅力を感じているからです。
これやん:作品は点を打った造形が印象的です。この表現はどこから生まれたのですか?
大塚:私はイタリアで陶芸を学んだ時期があったのですが、今話した太郎さんの影響もあり、イタリアにいながらもアフリカやケルト美術、縄文時代の造形に興味を持ってやっていました。その時、自分なりにできた形は、二つの顔がひとつになっていて、片方が生を表して目を開き、もう片方は目を閉じて死を表わすというものでした。私は生と死がつながったところには、何らかのエネルギーがあると感じて、ふと点を打ってみたんです。そのとき、心が腑に落ちたというか、落ち着いたんです。それからは表面に点を打ち、白土を埋め込むようになりました。今ではその点に穴が空くようになり、白土が埋まっている部分とそうではない部分が共存することで、陰と陽というか、大いなるものと結びついたように感じています。この点は生と死を貫くリズムでもあります。
これやん:イタリアの美術からは、どんな影響を受けましたか?
大塚:彼らは偶然性よりも理性を持って、必然的にものを作る思考があります。私もフォルムを完璧にしたいと思っているので、その意味では彼らと共通します。でも、点を打つというのはそれとは違って自由で偶然性がある。それは東洋的とも言えます。そのふたつの考え方を取り入れることで、今の私の作品があると思っています。
これやん:そこが作品の造形の美しさと生命力の源になっているんですね。
大塚:人類はもともと精神文明を持っていましたが、いつしかそれは物質文明へと置き換わってしまった。私自身、今の世界に行き詰まりを感じていますが、だからといって過去には戻れません。であるとすれば、この先の未来は精神文明と物質文明が一体になった世界を築かない限り、先はない。そうすることで人類はこの分岐点を、いい方向へとむかっていくことができると思っています。