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待宵の海

今津奈鶴子Natsuko Imazu

作品概要

制作年
2021年
素材
油彩、キャンバス
サイズ
380mm(幅)×380mm(高さ)×65mm(奥行き)

これやんの作品コメント

コケをテーマにした緻密な世界を描く今津奈鶴子さん。こちらは月のクレーターの模様を海として表現しています。ここで描かれているのは、夜に花を咲かせるマツヨイグサ。そしてコケという植物の海をテントウムシが渡っているという構図になっています。黒と緑、そして花の黄色のコントラストが美しく、構図からもロマンを感じる作品です。
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STORY

倉本:今津さんはコケをモチーフにした繊細な世界を画で表現されていますが、そこへと至った経緯を振り返っていただけますか。

今津: 自然や公園が身近にある環境で育ったのに加えて、小さい頃から“絵を描いて生きていきたい”と思っていたので、これまた自然の多い武蔵野美術大学に入りました。3年生の頃、モチーフを探しながら学校のまわりを散歩していたら、ペンペン草が生えていて“懐かしい”と思って描き始めたんです。以前から細かい作業はすごく好きでした。それで、80号くらいの大きな画面いっぱいにペンペン草を描いたら、それまでになく周囲の評価を集めたんです。そこからいわゆる雑草と呼ばれる植物を描くようになりました。“これが好きだ!”!って、ピタッときた感じもありました。

倉本:雑草をきっかけに、コケを主体に描くようになったのは?

今津:雑草を描き続けていたのですが、実際に作家としてやっていくとなったら、なにかあと一歩届かない感じがあってモヤモヤしていました。そんなときに取材で屋久島に行ったんです。それまでもコケは脇役的に描いていたのですが、屋久島のコケを見たら“今まで私が描いていたのは偽物だ。本物を描かなきゃ!”と思ったんです。 陸上に隆起した岩塊にコケが生えたことで屋久島の植物が育っていったことに、すごくロマンを感じました。そもそも地球の最初の陸上植物がコケなので、私が作っている「こけだまくん」は小さい地球を描く気持ちで描いています。コケを通して地球の原風景を表現しているようなイメージです。

倉本:コケやペンペン草はとても小さな植物ですが、どんなところに魅了されたのですか?

今津:無駄がないと言いますか、私の中ではこれが美しい形の理想だと思っていて、その究極がコケなんです。重ねることが効果を生むので、油絵を描く身としても今まで培ってきたものを生かせます。

倉本:見るほどに驚異的に細かい描写ですが、どんな風にして描いていくのですか?

今津:日本画用の面相筆で頑張って描いています。油絵なので、重ねて描けるのが利点です。実際にコケは重なって生えているものなので、油絵で描くと立体感が出せます。一本一本精密に描いていますが、作品の中では季節感だったり、昆虫に配置など、イメージを膨らませて設定をしっかり作ります。 実際にありそうでちょっと懐かしみもあるけど、そこを超えたところを目指しています。ほんとうに時間がかかる描き方ですが、手が抜けない。それが自分には合っていたんだと思います。私の作品が「窓」的な意味を持って、家の中でも自然の中にいる気分を体験してもらえたら素敵だなって思うんです。