風がふいて
作品概要
- 制作年
- 2021年
- 素材
- 紙、インク
- サイズ
- 443mm(幅)×368mm(高さ)×20mm(奥行き)/額装サイズ
- エディション
- 2/5
これやんの作品コメント
STORY
これやん:幼い頃はどんな画を描いていましたか?
サイトウ:プールの光が好きだったのとデヴィッド・ホックニーの影響もあり、プールの絵をよく描いていました。ペインティングに憧れていましたが、美大では銅版画を学びました。私のドライポイントという技法は、ニードルで銅版を引っ掻いて描いていきますが、それと私が幼い頃の体験とマッチしたんです。生まれ育った横須賀の浦賀には造船所があり、いろんなところに鉄やレンガの廃材が置いてありました。その廃材を釘でひっかいて遊んでいました。
これやん:その体験がリンクして作品になったんですね。
サイトウ:ドライポイントはシンプルなので自由で直接的に描けます。でも、力もいるし線もガタガタになるので、思ったようにいきません。それが楽しいんです。引っ掻いて描くことに生きている実感を感じます。在学中に他の技法にも取り組みましたがあまりよく分からなくて、卒業後に人に教える身になってはじめて理解できたこともありました。なので、ドライポイントだけを続けながら大学院まで進み……卒業後もそれに熱中していました。それでふと回りを見渡したときには、誰もドライポイントをやっていませんでした(笑)。私としては何かを掴むために今もこの技法を続けています。
これやん:作品を見るとさまざまな線の太さやインクの滲み具合に味を感じます。
サイトウ:ニードルは1つだけなので線の太さは抑揚というか、力の入れ具合で表情が変わります。ニードルに力を入れると“ギッっ”て直線ができて止まって……というのを繰り返しますが、止まったところの力の入れ具合で大小のインクの溜まりができます。この溜まりになぜかエアーズロックに生息するカブトガニが潜んでいると感じます。雨が降ったときにだけ孵化する不思議な生き物ですが、このインクの溜まりを見たときに想起するんですよね。
これやん:力がいるということは、わりと衝動的に作るのですか?
サイトウ:作るときは衝動的な自分と、それを見つめる冷静な自分もいますね。モチーフにしているのは太陽や風といった自然の体感や、混沌とした今の世界のモヤモヤした感じとかですね。モヤモヤ感は数字で、メッセージは文字で表現します。作品には詩があることも多く、誌的イメージもあります。いろいろと大変な世の中ですが、私の作品を見たときには太陽の暑さや風の気持ち良さを感じてほしいですね。でも、作品を通してもっといろんなことを伝えられるんじゃないかという気持ちもあって、今もそれを探しながら描いています。
これやん:ペインティングの作品も銅版画的ですね。
サイトウ:銅版画という表現を経てから、自分のペインティングがどうなるのか最初に試したのが、2023年のパークホテル東京でのアーティストルームの制作でした。部屋の壁いっぱいにニードルのような線をペインティングで表現して、その制作体験から持ち帰った感覚を今も追求しています。