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けげん:みつ

杉本小百合Sayuri Sugimoto

作品概要

制作年
2022年
素材
シナ合板、漆、銀粉
サイズ
300mm(幅)×300mm(高さ)×15mm(奥行き)
特筆事項
漆は紫外線に弱く劣化の原因となりますので、直射日光を避けていただくようお願いいたします。また、銀粉を使用しているため酸化による経年変化が起こりますが、その変化もお楽しみいただけたらと思います。
販売価格¥265,000(税込み)

これやんの作品コメント

漆を用いて絵画的な表現を追求する気鋭アーティスト、杉本小百合さんが初登場です。漆の代表的な技法でもある蒔絵を用いて制作されたこの作品は、気配を描いた抽象画のテイストのなかに、具象的な人の顔が描かれています。杉本さんが描く幽玄な世界観と、研出(とぎだし)蒔絵が生み出す深みのあるグラデーションが一体となり、見る人に美しさとインパクトを与える作品です。
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STORY

倉本:杉本さんは伝統工芸の素材でもある、漆を用いて絵画的な制作をしていますが、そもそも工芸を学ぶぼうと思ったきっかけは何でしたか?

杉本:小さい頃から少女漫画を写したりと、絵を描くのが好きでした。それで、絵を勉強したくて美大を目指していたのですが、デッサンの授業を受けていたとき、先生に”あなたの絵は工芸っぽいね”と言われたのがきっかけでした。私は工芸=土っぽいイメージがあったのでびっくりしました。その頃の私はペン画が好きで、色よりも線で描くのが得意で、黒っぽく描き込んでいたから先生はそうおっしゃったのかも知れませんが、そこから工芸という選択肢が出てきました。進学する前に美大をいろいろ見て回るなかで、金沢美術工芸大学の卒業制作展で、それまで古くさいと思っていた漆のイメージを覆す作品に触れて、”こんなにも新しくて面白そうなことができるんやったらこの大学がいいな”と思って受験しました。漆にもいろんな技法があり、もちろん立体を作る人もたくさんいます……でも、漆でも絵が描けることが分かって。絵が描ける人はいっぱいいるけど、漆で描ける人は少ない”ここは穴場や”と思い、この手法を始めました(笑)。

倉本:漆で絵画的な表現する技法は、どのように習得したのですか。

杉本:大学の制作授業で、漆で平面表現する課題があり、そのときに日本画家の上村松園の『焔』の模写をやってみたんです。金粉は高くて使えないので、銀粉でやってみたのですが、そのときの出来上がりがすごく良くて。きっかけは授業でしたが、研出(とぎだし)蒔絵という技法だけでどこまでいけるのかやってみようと思いました。そこから作風を変えずに今の表現を追求しています。蒔絵で描いたあとに漆で消して、磨いて、出現させていくというやり方です。

倉本:この技法の魅力は何だと思いますか?

杉本:深みのあるグラデーションの表現ができることですね。この技法なら、絵画としても成立させられるんじゃないかと思ったんです。あと蒔絵=金というイメージがあまり好きではないので、銀粉を使っています(笑)。漆は行程がたくさんあり、作るのにとても時間かかるんです。でも、完成度が上がるほど、手垢みたいなものが分からなくなる。全部手で作っているのに、パッと見たときにどういう風に作ったのかわからないというのが、私は面白いなあと思っています。

倉本:杉本さんの作品が持つ幽玄さはどこから生まれたのですか?

杉本:私は谷崎潤一郎の『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』に書かれている日本の美の感覚と、上村松園が『焔』で表現した生き霊になった女性の絵から影響を受けて、美しさと畏怖の念が共存する世界観を描きたいと思うようになりました。大学の授業で”美しいものにも種類があり、「醜さ」というのも美の範疇に入る”と学んだのですが、きれいなだけではないものも美しく描けると思っていて、それがおっしゃっていただいた幽玄さにつながっているのだと思います。

倉本:幽玄とした気配の中から、顔が浮かび上がっていますよね。

杉本:幼い頃に見ていたアニメや漫画の影響もあって、女性の顔が出てくるのだと思います。人間の顔は具体的なものの象徴として描いています。雲などの抽象的なものを先に描いて、顔のような具象的なものを描き、そしてまた抽象に戻って……というように、抽象と具象を行ったり来たりしながら、複雑な世界を作り上げていきます。