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たま博士の驚異の新玉実験

イナイシとおるToru Inaishi

作品概要

制作年
2019年
使用素材
紙粘土、ガラス、木、ステンレス線、油絵具、他
サイズ
200mm(幅)×270mm(高さ)×115mm(奥行き)/本体
256mm(幅)×315mm(高さ)×165mm(奥行き)/ケース
特筆事項
ケース背面にフック穴×2あり、壁掛けできます。本体はケースから取り外せます。

これやんの作品コメント

稲石さんの人気作品、四角猫のなかでもこちらはバリエーション・パターンで、四角猫の博士シリーズの第2作目です。ビー玉の入ったケースを作品化することから始まったこの作品は、博士(猫)自身が遊ぶためのボールを作る実験しているというテーマです。猫の目に二重で仕込まれたビー玉や身体の色味とケース内のビー玉の色味を関連つけることで、可愛いらしさがありながらもスマートな印象が残る作品です。
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STORY

倉本:稲石さんの作品はちょっとグロテスクな作風もあれば、この四角猫のように可愛いものまで、さまざまな作風がありますね。

稲石:そうですね。僕は彫刻を20年くらいやっていて、オーギュスト・ロダンらが近代彫刻で重視していた“量の膨らみ”を出発点にしています。例えば最近の彫刻では虚空間……無いものを空間として表現する手法がよくありますが、そちらのアプローチではなくクラシックな彫刻表現を踏まえつつ、膨らみ以外の表現はないのかと考えていたときに……“えぐって”みようと。ただ、えぐるだけじゃなく、その中に何かキラキラしたもの、ビー玉を入れて、多々例えばそこから希望のようなものも生まれることなどを表現しました。その頃にちょうど母が亡くなり、体がもがれたような苦しみがあって、人間が失われて代わりに生まれてくるものとは何か……そういうことを考えながら作っていました。2015年くらいからそれらを作っていましたが、この作風が一旦落ち着いた時に突然、四角猫がボコっと出てきました。

倉本:突然って、具体的にはどのようにして生まれたんですか?

稲石:3、4年前に思い付いて殴り書きしたスケッチがあって、それをもとに立体を途中まで作って放置していたんです。それで、2018年に動物をテーマにした展覧会に参加する際に、それに合わせて完成させたのがはじまりでした。えぐった作品みたいなコンセプチュアルな理屈はまったくないのですが、そうしたらこの四角い猫がどんどん広がっていって、今では海外からも声がかかるようになって。

倉本:それはブレイク寸前な感じですね! えぐった表現の作品は立体物であるのにも関わらずシュールさを感じますが、それを経て四角猫のようなキャッチーさが生まれているからこそ、不思議な魅力があるんですね。

稲石:誰も猫を四角くは作らないですからね。ただ、僕にとって猫を四角く作ると、すごく頑張っている感じがして……それで四角って自分にとっては感情移入しやすい造形だということも分かりました。顔の造形ははちょっと扁平ですが、写実的に作っていますし、最終的な造形は猫として成立するようにしています。今までやっていた写実の技術を使いつつ、あえて単純化した造形を組み合わせたら、面白いものができるんじゃないかなっていう思いが、自分の中にもありました。

倉本:なるほど、写実をもうちょっと拡張していっているんですね。“可愛いから”という理由ではじめるのではなくて、逆からそこへ到達しているというか。ちなみにこの四角猫は、紙粘土でできているんですよね?

稲石:そうです。僕は直付けと言う方法で、型から作るのではなく、粘土を直接付けています。ヘラで直接ハッチングをしながらこういう細かい表現を作っていくのが好きなのですが、それができる素材が唯一、紙粘土でした。石粉粘土も使いましたが、重くて収縮率が高いので割れてしまいます。今はすごく軽い紙粘土があって、これは本当に子供用の素材でそれとビー玉だから、素材としてはすごく安価なんですよ。でも、こういったシンプルなアプローチをしているので安定感も抜群に良いです。10年以上かけて、50~60年は劣化や退色しないで、安定が持続する素材と作り方を試行錯誤して辿り着いたのが、この手法でした。