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No.155もけもけもの

黒田恵枝Yoshie Kuroda

作品概要

制作年
2020年
使用素材
使われなくなった衣類、糸、綿
サイズ
420mm(幅)×840mm(高さ)×260mm(奥行き)

これやんの作品コメント

使われなくなった衣類を用いて、可愛らしさと怖さが同居した架空の動物を作っている黒田さん。さまざまな素材と想像上のイメージを組み合わせることで、この世にないものを生み出すというアートとしての強みを持っています。今回お持ちいただいた最新作は、作り上げた架空の動物が動いている一瞬を捉えたかのような躍動感あふれるポージングにこだわった作られたとのこと。手先や間接といったディテールの表現度からも進化を感じられる力作です!
SOLD OUT

STORY

倉本:黒田さんは多摩美術大学の情報デザイン学科出身とのことですが、裁縫という表現方法を選んだ経緯はどういったものでしたか?

黒田:在学中、情報デザインということもありデジタルなツールを使う人が多かったのですが、私は手作業の集積によって作られる、いわゆるアナログな手法の持つ強さのようなものが気になっていました。幼い頃からお母さんのミシンや手縫いで物作りをするのが好きで、在学中から古着屋さんでアルバイトをして古着の買取査定もしていました。そのときに買い取ったものの、商品にもならずに処分される古着を見て……これを使って何かできないかと思い、最初の頃はリメイクなどをしていました。

倉本:それが最終的には空想の生き物へと生まれ変わったわけですね。

黒田:ポケモンやデジモン、スタジオジブリの作品や「ハリーポッター」など、映画やアニメに登場するファンタジーな生き物が大好きだったので、実在する動物の造形を借りて、新たな表現へと広げていきたいと思っていました。例えばこの作品なら顔はウサギで、足はコアラ、手は人間……と、いろんな生き物を組み合わせたキメラ的な生き物で、素材はスウェットパーカーやプリントなど、使われなくなったさまざまな衣服を寄せ集めています。“獣”や“物の怪”などの言葉から着想を得た“もけもけ”と“もけもの”というふたつのシリーズがあって、前者が小さいもので、後者は人型くらいの大きいものもいます。

倉本: “もけもけもの”の住人のひとりということですね。

黒田:はい。使われなくなった衣服を死者のメタファーのようだと思っていて、衣服は“第二の皮膚”と言われることもありますし。ですから、死んでしまったものを生まれ変わらせるという死生観的な意味合いもあります。それでも出来上がった生き物たちはクスっと笑えるような、どこかコミカルで憎めない感じにしたいなとも思っています。

倉本:空想から生まれる作品のフォルムは、集めた素材から着想していくのですか?

黒田:制作のパターンは2つあって、スケッチを描いてから色や素材を探していく方法と、素材となる衣服を見ながらそれに合う形を考えていく方法があります。その両方をいったりきたりしながら作っていますね。

倉本:手や足も細かく作られていますね。

黒田:しっかり縫うと固くなり、布っぽくない質感になるんです。最初は全部鼻先から作り始めていて、綿を詰めては縫って、詰めては縫って……と繰り返して作っていきます。Tシャツ素材は伸縮性があるので、綿を詰めると生き物の皮膚のような質感になりますね。

倉本:確かに空想ではありますが、あたかも本当に存在している生き物のようにも見えます。

黒田:ぬいぐるみでありながら彫刻作品でもあると思っていて、ぬいぐるみや彫刻といった概念を横断したときに、見る人が何を感じるのかということに興味があります。最近はインスタレーションのような展示方法を考えながら、制作の技術を磨いていこうと思っています。