ジャルジャルと語る芸術談義 ~お笑いコンビがしゃべる、アートの魅力~
これがアートなら“なんぼでも行けるぞ”
ジャンルに飛び越えていく可能性にワクワクしましたーー後藤
倉本:僕が日頃から感じているアートの面白さと、ジャルジャルがアートを意識しないでやっていたネタとのシンクロ性を感じていて。彼らなら僕がずっと思っていた笑いとアートの橋渡しができるんちゃうかな、と思ったんです。それで彼らをアートの方面に引っ張ってきたんよね。
後藤:意識しないでやっていたネタのことを、倉本さんに“それ、アートやで”と言われて。それでこれがアートなら“なんぼでも行けるぞ”、と。違うジャンルに飛び越えていく可能性があるんだ、とワクワクしましたね。
倉本:後藤君はアートのことを“オチのないボケなんやと思えた”と言っていて。笑いの場合だったら、突っ込んで、オチがあって、ということだけど。アートは笑わせないでもよくて、でも何か不思議なインパクトを感じてしまう、みたいな。それが芸人らしい捉え方やなって思いました。はじめて一緒にアートを観に行ったのは、Bunkamuraザ・ミュージアムでシュールレアリズムの展示があった時。福徳君と一緒に行って説明しながら見たよね。
福徳:はい、“この作品はこういうボケが隠されてんねん”っていう倉本さんの説明を受けながらでした(笑)。例えば、昔の人はテレビなんか無かったから、絵で笑かすしかないし、みんなは真顔で見てるけどこれは何百年後かの人がジャルジャルのネタを真顔で見てるのと一緒や、というような説明です。そんなことをずっと話しながら見ていたら、“静かにして下さい”と係員の方に怒られました(笑)。
倉本:後藤君は僕の家に色んな人が遊びに来ていた時に、名和晃平さんと仲良くなって、その後、なんと色んな縁があって後藤君の自宅を設計したのが名和さんが設計することになって。そんな感じで二人はアートの世界に浸かっていったっていう。
福徳:お笑いだとコントでお客さんを笑わせて終わりというのが普通ですが、アートは作品が一個出来ると、お客さんがさらにその作品を見ることにつながるのが刺激的でしたね。
倉本:最初にふたりと一緒に作ったのが「ひったくり続けられるバッグ」という作品でした。引ったくりと、引ったくられる役でやるコントがあって、バッグを引ったくられる側が絶対にバッグを離さなくて、へとへとになるっていう内容。やっぱり体力を使っているのを目の当たりにするから、そこがまず面白くて感動もできます。すごいエネルギーでバッグを引っ張り合うことで、形状が変化して違う物質になっていくことが、僕にはアートを作る作業にも見えたので、ボロボロに変わり果てたバッグを展示しました。
後藤:そういう経験を経て、アート作品を作るとしたら何なんだろうな、と。その先の考えをするようになりましたね。
作品を飾ることでその場所に、笑いの要素が生まれたのが大きいですね
おかげで空間への愛着が全然変わりましたーー福徳
倉本:アートを買うという行為としては、福徳君は僕がキュレーションしたアート展示「アーホ!」で、これやんにも出品している安東和之君の作品を買ったんよね。
福徳:はい、富士山がモチーフの山梨側から見た風景で、“山梨”というハンコの集合で作られた作品を買いました。そのときに「山梨があるのなら静岡側もあるんだろうな!」とツッコミを倉本さんが入れていて、面白いと思って買いました。友達とかが家に来ると“リビングに富士山飾ってるやん”と(笑)。で、“いや、よく見て”って言うと、“まじかよ! ハンコやん!”となるんですよ!
倉本:それもアートの威力やんね。なぜあの作品を買ったのかな?
福徳:やっぱりハンコで作品を作ってるというのが衝撃でしたし、そのアイディアがすごいなと思ったんですよね。
倉本:きっかけは僕だったのかもしれないけど、彼らはそれでアートに興味を持って作品を買い、すでに美術品が家にある生活をしているから、人が家に来た時に、アートを介したコミュニケーションということをやれてもいます。“これやん”で僕が勧めている“アートを自宅に飾る”ということをすでにやっているから、僕はふたりをこの対談企画に呼びたかったんです。後藤君なんか、アート作品の中に住んでいるようなものだからね。
後藤:そうなんです。家の設計とは別で、名和さんに絵も描いてもらいました。家を建ててからスペースに飾るとしたら何がいいかって相談したら“絵じゃないか”ということになって。
倉本:アートが無かった部屋に住んでいた時と、ある部屋に住んでいる時で、何か変わったことはあったかな?
後藤:僕の場合は自分で建てた家になったこともありますけど、アート作品を飾ることで感慨深い気持ちになりますね。
福徳:僕の場合は安東さんの作品を飾ることで、その場所に笑いの要素が生まれるというのが大きいですね。そのおかげで空間への愛着が全然変わりました。
ジャルジャルは芸人だからアート作品も面白いものとして見えている
その見方が成立するというのもアートの懐の深さだと思うーー倉本
倉本:芸術は見る人によって捉え方が変わるけど、君たちは芸人で、お笑いのことを考えているから、アート作品もそういう風に面白いものに見えている。その見方が成立するというのも、アートの懐の深さだと思うね。“これやん”のサイトに紹介されている作家さんでは、どの人が気になった?
後藤:僕は小川剛さんの作品ですね。角度によってすごく綺麗に見えたりするし、家に置くときにどんなものがいいかなって思ったときに、こういう綺麗さって大事だなって思いました。
福徳:僕ははっとり♡かんなさんです。単純にこんな感じの画を壁に飾ったら可愛いなって。あと福本歩さんの「ご飯付きカレー皿」も衝撃でしたね。
後藤:“これやん”面白いですよ。ページを開くとずーっと見ちゃいますね。
福徳:知らない作家さんの作品をたくさん見れるのって単純に面白い。あと、値段がポンって載っていて、インタビューも良いし、サイトとして面白いですよ。
倉本:アートマニアとは違う目線の人に、面白いって言われるとすごく嬉しいな。アート作品の値段に関してはどう思ったかな?
後藤:最近になってアートの相場がちょっとずつ分かってきました。一度名和さんに海外のアートフェアに誘われたことがあって、そのときは全然詳しくなくて“一番安い作品で5,000円くらいですか?”って聞いたら、“いや、10万円くらいするかも”と言われて、アートってそんなに高いんだということを初めて知りました。
倉本:その時はなんで五千円だと思ったの?
後藤:僕の価値観ですね。アートフェアに“気軽においでよ”って感じだったので、気軽に買える感じなのかなと思いました。その頃は“アートフェアってなんやろう? フリマみたいなもんかな?”っていうイメージでした。それで色んな展示やアートを見るようになり、あとは自分たちが作った作品に値段を付けたり、そんな経験をしながら相場が分かってきました。
倉本:アートってやってきたことがその物質の価値になると思うんですよね。一見シンプルに見える作品でも、すごく時間を費やして作っていたりするし、作品の耐久性も大事。福徳君は安東さんの作品を買ったときに、いいと思ったら買うタイプだなって思いました。でも、アートって生活するうえで必ずしも必要なものということでもないから、美術館に観に行くだけで買わないという価値観もあると思う。それついてはどう思う?
後藤:でも、それってお笑いも一緒だと思うんですよね。だから僕らにとっては、アートっていう枠のなかにお笑いがあるんやって感覚があります。
ジャルジャル
後藤淳平、福徳秀介からなるお笑いコンビ。同じ高校のラグビー部だった2人が、2003年にコンビを結成。2007年「NHK新人演芸大賞」、2008年「ABCお笑い新人グランプリ」優秀新人賞、2009年「上方漫才大賞」優秀新人賞、2013年「ABCお笑い新人グランプリ」優勝。ショートコント動画を配信する「JARU JARU TOWER」を展開中。倉本美津留とは笑いとアートの融合を試みるユニット“JART”としても活動、先日音楽家の渋谷慶一郎を招いたパフォーマンス「超コントPLUS feat.渋谷慶一郎」をSPIRALにて開催し、話題となった。2019年11月8日〜11日大阪・サンケイホールブリーゼより、倉本美津留が演出する単独ライブツアー「JARU JARU TOWER 2019」がスタートしている。
<JARU JARU TOWER 2019>
11月8日〜11日:大阪・サンケイホールブリーゼ、11月24日:JR九州ホール、12月7日:ウインクあいち、12月13日〜15日:ルミネtheよしもと