♠(スペード)
作品概要
- 制作年
- 2017年
- 使用素材
- フェルト、刺繍糸
- サイズ
- 288mm(幅)×379mm(高さ)
これやんの作品コメント
STORY
倉本:すごく細かい作品ですが、技法は刺繍になるんですよね。
前野:そうです。ペンや筆で画を描くことが、私にとっては刺繍でした。ですからドローイングのような感覚で刺繍をしています。フェルトを使っているのは上糸と横糸のような目がないので、細かい点が糸で打てるからです。黒い線や点描が多いのは漫画が好きだからです。
倉本:そういわれるとたしかに漫画っぽい表現ですね。
前野:水木しげるさんなど日本の漫画が大好きです。わたしは美術やアートよりも漫画やお笑いのような日本の文化が好きで、それを吸収して表現したら、こうなりました。
倉本:この刺繍の表現はいつからはじめたのですか?
前野:34歳のときなので、今からちょうど5年前です。わたしは長年美術とは関係のない仕事をしていて、仕事のストレスを解消するために縫い物が良いことを知りました。それで、たまたま家にあったフェルトと糸と針で、まずは波縫いを練習してみたら、意外と縫えるぞとなって……気がついたらひとつの作品を完成させていました。それで、ここにある15cm×15cmのフェルト布をこんな調子で縫えたら、以前から憧れていたアーティストになれるんじゃないかって思って。
倉本:一夜にして自分の才能を発見したんですね! ちなみにどんな風に縫っていくのですか?
前野:わたしの場合、頭に浮かんだ情景を表わすではないので、とにかく手を動かすうちに、だんだんと出来上がっていきます。今日は直線を引きたいと思ったら線から始めるし、あとは猫を作ろうと思ったはじめたのに、なんだか猫に見えなく違うものにしたり。縫いはじめはちょっと退屈なのですが、手を進めるうちにいろいろと閃きながら縫っています。わたしはけっこうな飽き性なのですが、これは飽きなかったですね。ただ、フェルトは一旦縫うと黒い糸の毛羽が残ってしまうので後戻りはできません。なので、一筆書きのように縫っていきます。
倉本:作品ひとつを完成させるのに、どれくらいの時間をかけていますか?
前野:一日10時間くらいやって1~2週間ですね。
倉本:すごい! ある意味即興で作っているのに、すごく時間をかけているという。そんな表現は珍しいですよ。
前野:そうかもしれないです。わたしは“とりあえずやっちゃえ!”ってやるタイプなので、画を描く人のほうが、絵具や下書きなどいろいろと準備することが多くて大変だなって思います。