水の音
作品概要
- 制作年
- 2021年
- 素材
- 紙、アクリルガッシュ
- サイズ
- 470mm(幅)×622mm(高さ)×23mm(奥行き)/額装
これやんの作品コメント
STORY
これやん:絵画とモザイク制作というふたつの表現を行っていますね。
小林:大学では油絵を専攻していましたが、森のなかや公園など屋外に置ける作品を作りたくて、絵ではなくて自分に合うものを探していました。ちょうどその頃にイタリアへ行って“モザイクだ!”と閃きました。イタリアのモザイクはちょっと特殊で素材がガラスなんです。私がもともと作りたかったカラフルなものとイタリアのガラスの色彩が合っていたので、今では絵とモザイクの両方の作品を作っています。
これやん:独特な色彩感覚はどこで培われたのですか?
小林:初めて沖縄でダイビングをしたのがきっかけでした。海に潜ったら海中の世界ってすごくカラフルで、水からあがった時に“世の中って茶色い!”と思ったんです。それまで自分は茶色系の絵ばかりを描いていたのですが、それは自分で茶系の色を選んでいたのではなく、何となく見慣れていたからその色で描いていたことに気がつきました。それからは意識的に自分で色彩をコントロールしたいなと思うようになりました。サンゴや熱帯魚を見て、今言ったような意識の変化があってから、自分の好きな色ってどんな感じかなと探求していくうちに、今のような色彩になりました。
これやん:小林さんの絵画作品は見ていると心が洗われるというか、ホッとします。
小林:20代の頃にスランプに陥って、自分が納得する絵がまったく描けなくなりました。その頃にフラっと旅に出たイタリアで遺跡を観たんです。緑が綺麗な場所で古びた女神さまの像があり、その景色に心を打たれて。女神さまには小さいお花が飾られていることに気がつき、それで私が来るちょっと前にも人が来て、同じようなことを感じていたのかもなって思ったんです。昔から人間という小さい生き物がここに来ては癒やされていく……そんな大きな時間の流れを感じ、“ああ、ここに居てもいいんだ”と許されたような感覚になりました。この感覚をどうやって作品として表現できるのか、今も試行錯誤しています。
これやん:その感覚が小林さんの絵画表現の原点なのですね。描くモチーフはどのように決めているのですか?
小林:今言った感覚はそのときだけのものではなく、自分の身近なところで感じるので、それがモチーフになっています。例えば海とか夕陽のような綺麗な世界と、家やピアノとか小さい生き物の存在を暗示するものを織り交ぜて表現しています。「水の音」は小さなトンネルから世界を覗いている感覚で描いていて。ひっそりとした庭、光がまぶしい夏の季節のなか、ただ緑と水が綺麗に見える。それをじっと眺めている自分……みたいな感覚になってもらえたら、私がイタリアで受けた感覚をくみ取ってくれる人がいるかもしれない。そんな思いを持って描きました。