鑑賞者が驚くようなユニークな作品を生み出す、彫刻家・浅香弘能先生。
今回は新しいシリーズ「KASHOUMON」の最新作を3つ出品していただきました。
「KASHOUMON」は、見る人に“視覚の正しさ”を問いかけ、
“脳をゆさぶる”ような体験をもたらします。
これやんのために、飾りやすいサイズで制作したスペシャルなアート作品を、
ぜひご自宅にお迎えください。
これやん浅香先生と言えば大理石で刃を表現する作品が有名ですが、ここ最近は発泡スチロールをテーマにした「KASHOUMON」というまったく異なる作風を作っていますね。その経緯はどういうものでしたか?
浅香きっかけは、我々が見ている視覚的な情報が本当に正しいのかという疑問でした。今の社会は目に入るほとんどの情報がデジタル化され、それが“本当のリアルってなんだろう”と考えるきっかけになりました。それに彫刻の世界においても、石彫の作品でリアルさを追求したものは実は少なく、あくまで理想を具現化した“彫像”が多いんです。なので、リアルさを求めるのならいっそのこと、真逆の素材に置き換えたらいいのではと、思いました。
これやんそれが発泡スチロールだったんですね。
浅香重くて硬い天然素材の大理石に対して、軽くて柔らかい人工物質って何だろう……そんなことを考えていたら、たまたま家にあった発泡スチロールを見て、これを大理石で作ってみたらどうかと。
これやんその発想はいつからあったのですか?
浅香10年くらい前です。刀の作品をはじめたときもそうでしたが、アイディアを思い付いてから具現化する準備をして、満足のいく作品として完成するまでに、だいたい10年かかっています。意図的に変えているわけではなく、自分のなかで何か変わったと感じると、だいたい10年が経っている。そんな感じです。
これやん10年! それだけ実現するのが大変なんですね。
浅香大理石で発泡スチロールを表現するための道具を作ることからはじめるので、時間もかかります。新しい作品をはじめるときに大事なのは、彫り方も含めてその表現法が正しいかどうかを見極めることです。これまで作ってきた刀の作品は“石に見せる”手法でしたが、発泡スチロールは“石に見えないようにする”という意味で、アプローチ自体も真逆なのです。だから、誰がどう見ても“発泡スチロールにしか見えない”ものでないといけない。そのためにも素材の柔らかさや軽さが、見た人に伝わる必要があり、そのために発泡スチロールの泡の粒を細かく彫れる道具を開発して、一粒ずつ彫っていくという手法になりました。
これやん「KASHOUMON」の作品を見たときは、本当に発泡スチロールだと思いました。実際に作品に触ったときに“あれ? これが石? 脳がおかしくなったんじゃないか?”という不思議な感覚になりました。
浅香そう言ってもらえると嬉しいです。この作品を見たときに感じてほしいのは、発泡スチロールかと思ってしまった錯覚と驚きです。僕はその姿をみて、“よし、騙せた!”とワクワクしてしまうんですよ(笑)。
これやん作品を購入したら、どんなところに飾ってもらいたいですか?
浅香毎日見るような身近なところに飾ってもらいたいですね。飾った作品を見た人が“なんでこんなところに発泡スチロールを飾っているの?”と思い、“それ、実は大理石の彫刻作品なんです”と説明して、そのときに見た人のリアクションを楽しんでもらいたいです。作品を所有する人は、毎回そのドッキリを仕掛けられるわけですから(笑)。作品の題材は身近でポップですが、制作自体は大真面目にやっている。そういったところのユーモアも感じてもらえたら嬉しいです。
これやん人工物を真剣に人の手でリアルに表現するという、気の遠くなるような作業を経て、「KASHOUMON」は生まれているんですね。
浅香僕の作品はアプローチとしては未来に向かっていますが、制作行為自体はどんどん古代に向かっていると思っています。刀の作品も大変でしたが、この発泡スチロールに作品はより時間がかかっているので……“何でそんなにしんどいことをするの?”とも聞かれます。でも、こうしないと、何か自分の気が済まないんです。人は便利なものに頼る傾向があり、AIが登場した今、それに頼ったら“人は一体何を考えるのか”とも思っていて。それなら僕は、作品制作を通じて真逆を行くというか。世の中が便利になるほどに手を動かして、どんどん大変なことに向かっていく。そうやって自分が考えて、思ったことを無理矢理、石に押しつけているんです(笑)。そこが制作のテーマでもある“石を用いて自分ができる限界の追求と反骨精神”だと思っています。